警察が容疑者を逮捕した際、その「身元」がさっぱり分からないというケースがあるようです。その場合の裁判はどうなるのでしょうか。
刑事裁判にかけることを『公判請求』とか『起訴』と言います。
起訴するのは『検察官』で、容疑者は『被告人』と呼ばれます。検察官は起訴の際、『起訴状』を作成して裁判所に提出します。この起訴状には、検察官が処罰すべきと考える『犯罪事実』とあわせて、被告人を特定するための情報、通常だと被告人の氏名・生年月日・本籍・住居・職業が記載されます。
しかし、被告人が定まった住所を有しておらず、特定の住居を記載できないことがあります。また、被告人には黙秘権がありますから、終始黙秘して氏名すら名乗らないこともあります。そういった理由で、氏名や住居等の情報が不明な場合、起訴状にはどのような記載がされるのでしょうか。
刑事訴訟法では『被告人の氏名が明らかでないときは、人相、体格その他被告人を特定するに足りる事項で被告人を指示することができる』とされています(刑事訴訟法64条2項)。検察官は、起訴状の氏名欄に『氏名不詳』と記載して、被告人の人相・体格などを具体的に記して、被告人の写真を添付するのが通常のようです。
また、刑事裁判では、第1回公判期日の冒頭で、裁判官が、出廷した人物と起訴状に被告人として記載されている人が、同一人物であるかどうかを確認しなければなりません(刑事訴訟規則196条、「人定質問」といいます)。通常は、氏名などを問うことによって確認しますが、今回のようなケースでは、裁判官は、起訴状に記載された被告人の身体的特徴や添付された写真と出廷した人物を照らし合わせて確認することになるのです。
仮に黙秘したとしても、上記のような手続きが取られ、裁判は進むということですね。