2020.5.26 未分類
高次脳機能障害について
高次脳機能障害とは,頭部外傷により,
脳挫傷,外傷性くも膜下出血,急性硬膜下血腫,びまん性軸策損傷など,脳に損傷を受けたことにより,
記憶・記銘障害(日時・場所・人の名前が覚えられない,新しい出来事を覚えられない,同じことを繰り返し質問する),
注意障害(簡単なミスが多い,気が散りやすい,ふたつのことを同時に出来ない),
失見当識,知能低下,判断力低下,人格変化,易怒性,感情易変,多弁,攻撃性,暴言・暴力,幼稚性,
病的嫉妬,被害妄想,意欲低下,てんかん,失調性歩行,痙性型麻痺,などの症状が発症することにより,社会生活または日常生活に制約がある状態が高次脳機能障害です。
障害が高度な場合は,高度の痴呆があるために,寝たきりや車椅子生活の状態となり,生活維持に必要な身の回りの動作に全面的に介護を要する状態となれば,自賠責保険の後遺障害等級別表第一第1級1号に該当します。
診断のための検査は,頭部MRI,CT,脳波,知能検査,痴呆度検査,心理テスト,神経学的検査などを行います。
具体的には,後遺障害の等級認定に必要な資料としては,
交通事故証明書
交通事故発生状況報告書
初診から症状固定までの診断書・診療報酬明細書
後遺障害の等級認定に必要な資料としては。
後遺障害診断書
神経系統の障害に関する医学的所見
頭部外傷後の意識障害についての所見
脳波検査
心理学的検査
レントゲン・МRI・CTの画像所見
日常生活報告書
等が必要となります。これらの資料により,自賠責保険審査会高次脳機能障害専門部会の審議に基づいて後遺障害等級を回答します。
「自賠責保険の高次脳障害等級」
別表第一1級1号
(障害認定基準)
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」
(補足的な考え方)
「身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために,生活維持に必要な身の回り動作に全面介護を要するもの」
別表第一2級1号
(障害認定基準)
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの」
(補足的な考え方)
「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって,1人で外出することができず,日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄,食事などの活動はできても,生命維持に必要な身辺動作に,家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」
別表第二3級3号
(障害認定基準)
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの」
(補足的な考え方)
「自宅周辺を一人で外出できるなど,日常の生活範囲は自宅内に限定されていない。また声掛けや,介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力,新しいことを学習する能力,障害の自己認識,円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって,一般就労が全くできないか,困難なもの」
別表第二5級2号
(障害認定基準)
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
(補足的な考え方)
「単純くり返し作業などに限定すれば,一般就労も可能。たたし新しい作業を学習できな
かったり,環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており,就労の維持には,職場の理解と援助を欠かすことができないもの」
別表第二7級4号
(障害認定基準)
「神経系統の機能または精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
(補足的な考え方)
「一般就労を維持できるが,作業の手順が悪い,約束を忘れる,ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」
別表第二9級10号
(障害認定基準)
「神経系統の機能または精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」
(補足的な考え方)
「一般就労はできるが,問題解決能力などに傷害が残り,作業効率や作業持続力などに問題があるもの」
上記等級を決めるにあたっての診断や諸検査については下記の通りである。
【主な検査項目】
1.頭部外傷後の意識障害の程度
JCS又はGCSによる意識レベルの評価
2.レントゲン・CT・МRIなどによる脳損傷の画像診断(経過を追って撮影する)
3.脳波検査(慢性期に行う)
・外傷性てんかんの診断にも有用
4.神経審理学的検査
①知的機能に関する検査
・WĄIS-R・・・成人用
・WISC-Ⅲ・・・児童・生徒用
・WPPSI・・・幼児・児童用
・長谷川式簡易知能評価スケール
・Ⅿini-ⅯentaI Stata Examination
②記憶と学習機能に関する検査
・ウエクスラー記憶検査
・三宅式記銘検査
・ベントン視覚記銘検査
③言語機能に関する検査
・WAB失語症検査日本版
④前頭葉機能検査
・ウインスコンシン・カード分類テスト
⑤情報処理能力検査
⑥遂行機能検査
5.四肢の運動機能検査
6.身の回り動作能力の診断
7.認知・情緒・行動障害の診断
8.「日常生活報告書」患者の家族が記入
以上の諸資料によって「高次脳機能障害特定事案」として自賠責保険の審査会で審査して後遺障害等級を認定する。
事例1
交差点の自転車横断帯を被害者が自転車で横断中,右折してきた加害車が衝突し,被害者が路上に転倒した。
後遺障害14級9号が認定されそれに基づいて保険会社から示談額の提示があったが,後遺障害14級納得いかないと相談があった。
電話で相談を受け被害者からの聴取内容から後遺障害の異議申立の効果があると判断し来所相談日を予約しました。被害者来所相談にて,初診から症状固定までの頭部MRIの画像を読影し症状固定時にも脳挫傷痕の残存が確認されたこと,経過の診断書,後遺障害診断書,事故前と事故後の社会生活・日常生活で変わったことを確認し総合的に判断し,高次脳機能障害として後遺障害9級10号認定の可能性に確信を持つに至り受任することになりました。
①傷病名
脳挫傷,頭部挫傷,顔面挫創,頸椎捻挫,聴覚障害,右膝打撲傷,右肘打撲
②等級,後遺障害内容
弁護士が後遺障害等級に認定に関する異議申立書を作成して,自賠責保険に高次脳機能障害等級9級10号に該当するとして後遺障害の異議申し立てを行った。
その結果,第9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することが相当程度に制限されるもの」が認定された。
③ 被害者の後遺障害による業務の支障状態
新しいことが覚えられない,
複数の作業を同時に出来ない,
集中力の低下により仕事の効率の低下,
言葉による指示が理解出来にくい,
以前覚えていたことを思い出せない,
易怒性,
イライラする
などのため労働能力が低下し,職場でも総合職としての仕事に支障を来たしている。
④示談額
保険会社提示額504万円,
示談額3243万円(6.4倍)
増額額2739万円
⑤交渉経緯
後遺障害診断書の内容不十分なため弁護士が医師に面談して後遺障害診断書の再作成を依頼した。
日常生活状況報告書も補記し,弁護士の後遺障害異議申立書を添付して異議申立したところ9級10号が認定された。
当初保険会社は,被害者は大企業の社員で後遺障害による減収がないとして後遺障害遺失利益の労働能力喪失率と労働能力喪失期間を大幅な圧縮を主張してきた。
当方は,明確な労働能力の低下がある,本人は人一倍努力しているが,昇進・昇給・ボーナスへの影響は明白で,将来の転職,失業の可能性を否定できないことから,第1次定年の60歳までは事故前年の収入,61歳から就労可能年数までは年齢別平均賃金で算定することで主張し交渉を重ね合意できた。
⑥まとめ
後遺障害9級認定の医証・資料収集が出来たことが高額で示談解決できたことがポイントです。被害者の方も後遺障害等級が14級から9級に大幅に上がったこと,示談額も高額になりはるかに相談して良かったとおっしゃっていました。
事例2
被害者が住宅街を散歩中に,交差点を左折してきた車に巻き込まれ頭部外傷,脳挫創の重傷を負って,後遺障害として高次脳機能障害が残った。
被害者は年金生活者で一人暮らしであった。
後遺障害等級は別表一第2級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの」が認定された。
後遺障害の損害を下記の通り算定しました。
(1)後遺障害の損害遺失利益:0円
年金生活で一人暮らしの被害者であった。
(2)後遺障害慰謝料:23,700,000円
・赤い本の別表一第2級1号の基準額 2,370万円
(3)介護料:23,291,964円
被害者は症状固定後介護付き有料老人ホームに入ったが,自宅で暮らすことを強く希望していた。
自宅で生活するためには介護人が必要であるので,家政婦を雇って介護してもらう必要があった。
介護料を家政婦会日勤相当額の日額7,200円として計算した。
・平均余命 (平成27年簡易生命表)→12年
・12年のライプニッツ係数 8.863
7,200円×365×8.863=23,291,964円
(4)介護用品:506,000円
車椅子 131,000円
介護ベッド 375,000円
以上の後遺障害損害合計額:47,497,961円を請求しました。
加害者の保険会社の提示額はかなり低額であり,過失相殺として被害者の過失10%を主張してきたの で,示談交渉では解決の見込が経たないため訴訟を起こした。
訴訟の和解案では,被害者の1人暮らしは希望であり,現実に介護付き老人ホームに入所していることから,入所費用を将来の介護料と認め1,324万円,後遺障害慰謝料については,介護付き有料老人ホームでは被害者の後遺障害2級からして十分なん介護が行き届かないところもあるので後遺障害慰謝料で勘案し2,700円とした。
介護用品は,介護付き有料老人ホームに入っているので必要ないとした否認された。
また,被害者の過失は基本では加害者90%被害者10%であるが,事故状況を精査すると被害者の過失を問うのは酷であるとして過失相殺はなかった。
和解案の後遺障害の損害合計額は4,024万円であった。
和解案で被害者の要求額にかなり近い額であったので和解案に同意して和解が成立した。
事例3
1.後遺障害逸失利益:9,836,836円
別表第一第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」
基礎収入 3,612,500円(賃金センサス表男子学歴計70歳の平均年収である3,612,500円を基礎収入とする)
労働能力喪失率 100%
症状固定年齢 83歳
就労可能年数 3年(ライプニッツ係数 2.723)
後遺障害逸失利益 9,836,838円(3,612,500円×2.723)
被害者は,Hスーパーを創業し経営していたことから経営知識・経験,財務・会計知識,労務管理知識・経験があったことから,長男が代表取締役をする株式会社I土建の監査役に就任し,監査業務を行い,株主総会・役員会へも出席していた。
2. 後遺障害慰謝料:33,600,000円
本人 28,000,000円(別表第一第1級1号)
近親者 5,600,000円
合計 33,600,000円
※ 本人の後遺障害慰謝料は赤い本の基準額
※ 近親者の慰謝料について
近親者は3人である。
本件事故により死亡に比肩するような精神的苦痛を受けたものであるから,近親者の慰謝料としては本人分の2割相当額が妥当である。
28,000,000円×0.20=5,600,000円
3. 将来介護費:26,195,884円
家政婦介護料金 日額11,075円
紹介手数料日額の12% 11,075円×0.12=1,329円
介護料は日額 12,404円(11,075円+1,329円)
平均余命年数 7年(ライプニッツ係数5.786)
合計 26,195,884円(12,404円×365日×5.786)
4. 介護用品購入費用:756,363円
介護用品の内容については13の介護用品販売会社㈱ト―カイの見積書の通り。
5. 福祉自動車購入費:2,498,346円
ホンダ,トヨタ,ニッサン各社の福祉自動車のうち,車椅子1脚用,スロープタイプの福祉車両を条件として調査した。ホンダ,トヨタ,ニッサンの各車種の平均値から,さらに各社の平均値をとり,最終的に3社の平均値が2,498,346円となった。
6. 自宅新築費用:13,720,718円
新築総費用 24,380,000円
内訳)①建築費用(甲工務店)23,780,000円
②給水・排水工事(乙商会) 600,000円
比例按分割合 96/170.58
合計 13,720,718円(24,380,000円×96/170.58)
※ 比例按分割合について
新築費については,被害者の本件事故前のマンションの10号室の床面積は96㎡であり,新築家屋の床面積は170.58㎡であることから,これを比例按分した。
7. 将来治療費:2,684,785円
Z脳神経外科 年間80,014円
W針灸院 年間384,000円
小計 年間464,014円
平均余命年数 7年(ライプニッツ係数 5.786)
合計 2,684,785円(464,014円×5.786)
上記後遺障害の損害総合計は89,293,932円として請求した
加害者保険会社と交渉を重ね以下の金額で後遺障害損害額を合意した。
後遺障害逸失利益は,被害者は名義だけの監査役であるとして否認された。
後遺障害慰謝料は被害者が高齢であり,事故まで一人生活をしていたこと等を考慮して2500万円と した。
①後遺障害慰謝料:2500万円
②将来の介護料:2192万円
③介護車購入費:240万円
④住宅改造費:1000万円
⑤将来の治療費:100万円
合計 6032万円が後遺障害に関係する損害として合意した。