2020年10月15日に、最高裁で日本郵便の正社員と契約社員の待遇格差をについて争われた訴訟の判決がでました。最終的に原告である契約社員の訴えが全面的に勝訴し、日本郵便も判決を受けて「速やかに労使交渉を進め、制度改正に取り組む」と発表しています。この裁判ではどのような待遇格差が不合理と判断されたのでしょうか。裁判所が発表した判決について詳しく解説します。
正社員と契約社員との間にあった「5つの格差」
日本郵政では正社員と契約社員との間に次に挙げる5つの待遇や手当に違いがありました。最高裁はすべて「不合理な待遇格差」があったと認定しています。
①扶養手当
扶養手当は生活保障や福利厚生を図り、扶養家族がいるものの生活設計を容易にすることを通じ、継続的雇用を確保することを目的に正社員に対し月額1,500~1万5,800円の扶養手当が支給されています。
契約社員の中には、有期労働契約の更新を何度も繰り返して勤務していた従業員がいた事実もあり、最高裁では正社員と同様に「扶養家族がいて、継続的勤務が見込まれているのであれば、支給するのが妥当である」としました。
②年末年始勤務手当
1年のうち最も多忙を極める年末年始に勤務した正社員に対して、1日あたり4,000~5,000円支給されている手当です。12月29日から1月3日が対象で、多くの労働者が休日として過ごす期間に業務にあたったことへの対価という性質があります。
裁判所は「業務の内容や難易度にかかわらず最繁忙期の休日に働いたことが支給条件で、趣旨は契約社員にも当てはまる」と指摘し、正社員に支給する一方で契約社員に支給しないのは不合理だと判断しました。
③夏期・冬期休暇
正社員に対し各3日付与されている夏期・冬期休暇は「労働から離れる機会を与えることで心身の回復を図るのが目的で、契約社員に対しても「繁閑にかかわらない勤務が見込まれているため、夏期・冬期休暇を与えるのが妥当だ」としました。
④有給の病気休暇
日本郵便では私傷病によって勤務できなかった正社員に対し生活保障を図り、療養に専念させることを通じて継続的な雇用の確保を目的として年間最大90日、有休の病気休暇が与えられています。それに対し、契約社員は無給で年間10日までしか病気休暇は認められていませんでした。
契約社員の中には契約更新を何度も繰り返して勤務する従業員もおり、相応に継続的な勤務が見込まれていることを考えると、正社員との間で有給・無給の違いがあるのは不合理だとしました。
⑤祝日給
正社員は祝日と年始期間の勤務に割増賃金を支給しています。裁判所は「慣行に沿って特別休暇が与えられるとされる時期に最繁忙期のため勤務したことへの代償と解される」としました。
そして「最繁忙期に労働力を確保する観点から、契約社員に特別休暇がないことには理由があるとしても、年始期間の勤務の代償として祝日給に対応する祝日割増賃金を支給しないのは不合理である」という見解を示しています。
2日前の待遇格差訴訟と真逆の判決が出た理由
この判決が出る2日前、同じく正規雇用と非正規雇用の待遇格差をめぐる訴訟で判決が出ました。東京メトロの子会社であるメトロコマースの元契約社員が、正社員に支給されている退職金を契約社員には支給されないことが「不合理な格差」だと訴えていた事案です。
この判決で最高裁は、原告である元契約社員側の請求を退け、「10年前後勤続でも不合理とまでは評価できない」という判決を言い渡しました。
また、同日に大阪医科大学の元アルバイト職員が正社員に支給される賞与をアルバイトに支給しないのは不合理な格差として、賞与の支給を求めた裁判がありました。しかし、裁判所は「格差は不合理とまでは評価できない」とし、原告側の訴えを退けています。
正規雇用と非正規雇用の待遇格差をめぐる訴訟で、日本郵便と真逆の判決が出た理由は何があるでしょうか。
東京メトロコマースも大阪医科大学も、争点となったのは「賞与・退職金」といった給与の格差でした。そしてどちらも「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保・定着の目的がある」と位置づけ、違法とは言えないと判断され、賞与・退職金の支給目的が「複合的かつ会社側の裁量が大きい」との見方を示しています。しかし日本郵便の場合、正社員と契約社員の給料の差ではなく手当や休暇などの待遇の差を争っていた点に違いがあります。
例えば「年末年始勤務手当」の場合、仕事の難易度にかかわらず、その期間に勤務したことが支給条件であり、「祝日給」は最繁忙期のために勤務したことへの代償と解されます。これらが「正社員としての職務を遂行できる人材の確保・定着を図る目的」とは性質が異なるとしたのが最高裁の見解です。
同一賃金同一労働への第一歩となるか
今回の日本郵便の判決は、正規雇用との待遇格差に悩む非正規雇用の人には明るいニュースとなったことでしょう。政府主導で進む「同一賃金同一労働」の第一歩として、日本郵便をはじめ他の企業においても待遇面で格差是正が行われることを期待したいですね。