2020.12.7 交通事故
勤務中にケガをしたり亡くなったりした場合の勤務先への損害賠償請求
勤め人として労働に従事し、その勤務中にケガを負ったり死亡してしまった時、会社側に責任がある場合は損害賠償を求めることができます。
一方、勤務中の事故は労災保険からの給付を受けることも可能です。
本章では、事業主への損害賠償請求と労災保険の関係、事業主に対して損害賠償請求をするための条件や請求できる内容について解説していきます。
まずは労災保険からの給付を受けるのが優先
被災労働者側に弁護士が付いている場合、事業主への損害賠償請求も準備しながらまずは労災保険の給付を優先して進めるのが一般的です。
詳しくは後述しますが、事業主への賠償請求は過失相殺が認められるなどの事情で損害補填の割合が弱められてしまうことがあるため、まずは法律で規定されている労災保険の満額給付を目指して手続きを進めます。
労災保険からは以下の給付を受けられます。
・休業補償給付・・休業によって手にすることができなくなった賃金の一部を補います
・療養補償給付・・加療に伴う費用を負担してもらえます
・障害補償給付・・ケガ等が治った後に障害が残った場合、障害等級に応じて給付されます
・遺族補償年金・・労働者が死亡した場合に遺族に給付されます
・葬祭料・・死亡した労働者の葬祭を行った者に給付されます
色々と受けられる給付がありますが、実際には労働者が被った損害を100%補償してくれるわけではありません。
例えば休業補償給付は直近3か月の平均賃金の6割までしか補償されないので、必ずしも労災保険からの給付だけで満足を得ることはできないのです。
そして大きな着眼点として、労災保険では事故で不利益を被ったことに対する精神的な慰謝料については一切給付対象になりません。
そのため労災保険の給付を受けられたとしても、精神的慰謝料については全額事業主に求める必要があります。
基本的にはこのように、労災保険で補償されない部分に対して事業主に損害の補填を求めるべく、損害賠償請求をかけていくというのが基本的な道筋になります。
事業主に損害賠償請求ができる条件
事業主に損害賠償請求をするには、事業主側に安全配慮義務違反がなければいけません。
安全配慮義務とは、裁判所の言い方を借りれば「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」とされます。
要するに、会社として従業員が業務中に危険な目に合わないように配慮する義務ということです。
労働法の一つである労働安全衛生法を順守していたからといって必ずしも安全配慮義務を尽くしていたとは限りません。
安全配慮義務が尽くされていたかどうかは明確な判断基準がないため、個別の事案で精査・判断していく必要があります。
会社が安全配慮義務を尽くしていなかったことを立証する責任は労働者側にあり、被災した労働者やその遺族だけの力で証拠をそろえ立証していくのは至難の業です。
弁護士が付いていれば、素人には難しいこういった実務作業が可能になるので、会社に対する損害賠償請求の道を開くことができます。
労災が認められるかどうかで事業主への請求内容が変わる
冒頭の項で、まずは労災保険の給付を受けられるようにするのが優先とお話ししました。
労災が認められれば、労災保険でカバーできない部分についてのみ事業主に賠償請求を行うことになります。
例えば労災で補償されない慰謝料は全額を事業主に請求しますし、休業補償給付は労災からは基本的に賃金の6割しか補償されないので、残りの4割を事業主に請求します。
もし労災が認められず労災保険の給付が受けられない場合は、これを認めるよう行政訴訟で国と争うこともできますし、全ての損害を事業主に対して賠償請求することもできます。
この点、国が労災を認めるかどうかという問題と、事業主が安全配慮義務に違反したかどうかの問題は別個として考えます。
極端な話、会社に安全配慮義務違反があれば、労災の申請をせずに最初から全額事業主に請求をかけることも可能です。
つまり休業に伴い得られなくなった給料の全額、治療費、障害から発生する逸失利益(将来得られるはずだった給料など)、遺族に対する補償金、葬祭にかかった費用などの全額を会社に請求できるということです。
ただ、事業主への損害賠償請求は裁判で争うことになった場合、労働者側の過失を考慮され、過失相殺されてしまうこともよくあります。
労働者側に落ち度があった分、請求額を減らされてしまうということです。
また過失相殺が考慮されることの他に、会社側に安全配慮義務違反などの落ち度があったことを立証するハードルが高いことなどの事情もあります。
そのためまずは労災保険の適用を受けることを優先し、労災保険では満足できない不足部分について事業主に請求していくというのが常道となります。
まとめ
本章では労働者が勤務中にケガをしたり死亡してしまった場合に、勤め先の会社にどのような損害賠償請求ができるか見てきました。