2020.12.17 交通事故
交通事故によるケガを他県で治療した場合、任意保険金は支払ってもらえる?
交通事故に遭ってケガをした場合、基本的にはお住まいの近くにある病院で治療をすることになるでしょう。
しかし何らかの理由で、被害者が遠方の病院での治療を希望するケースがあります。
以下の設例を見てみましょう。
<設例>
私はある地方都市で祈祷師・占い師として活動しています。
交通事故で鎖骨を骨折してしまったのですが、神社近辺の病院での治療をした場合、「怪我が治らないのは霊能力がないからだ」と悪評が立ってしまう懸念があるので、他県での治療を希望しています。
加害者側の任意保険会社は、他県での治療費は保険金支払いの対象外と主張していますが、どのように対応すれば良いでしょうか。
このようなケースで、他県での治療費について保険会社に保険金支払いを認めてもらうことはできるのでしょうか。
1. 保険会社が他の都道府県での治療を認めない理由とは
被害者の希望があっても、保険会社が他の都道府県での治療を認めないのは、保険金額が予期せぬ形で高額になってしまうことを懸念しているからです。
具体的には、保険会社は主に以下の点を懸念しています。
1-1. 通院交通費が高額になってしまう
交通事故でケガをした場合、通院にかかる交通費も保険金支払い(損害賠償)の対象になります。
他の都道府県でケガの治療を行う場合、長距離移動に伴って、必然的に通院交通費も高額になりがちです。
通院が何度も重なると、通院交通費だけで数十万円規模になることもあるため、保険会社が支払いに難色を示す可能性があります。
1-2. 過剰な治療が行われて治療費が高額になってしまう
交通事故によるケガの治療費は、原則として実費相当額が保険金支払いの対象になります。
この点、他の都道府県でケガの治療を行う場合、大病院における精密検査や手術などの高額な治療が行われるケースも多く見られます。
保険会社は当然ながら、不必要な治療に対しては保険金を支払わないというスタンスです。
そのため、被害者が他の都道府県での治療を希望した場合、その必要性について厳しい審査が行われます。
2. 他の都道府県での治療が認められやすい場合とは?
上記の理由から、単に被害者が希望しているというだけでは、他の都道府県における治療に関する保険金支払いを保険会社が認める可能性は低いです。
設例のケースでは、被害者が「霊能力がないという悪評が立つから」という理由で他県での治療を希望しています。
しかし、これは被害者の主観的な事情に過ぎませんので、保険会社が他県での治療を認める可能性は低いでしょう。
これに対して、他の都道府県で治療を行う必要性が真に認められる場合には、保険会社も保険金支払いを拒否しにくくなります。
具体的には、以下に該当する場合であれば、他の都道府県での治療が認められやすいと考えられます。
2-1. 高度な手術を必要とする場合
脳損傷や複雑骨折などの重大な傷害が生じたケースでは、手術に高度の技術が必要とされます。
しかし地方の医療機関では、人員や専門性の観点から、必ずしも高度な手術を実施する環境が整っているとは限りません。
この場合、被害者が居住する都道府県には存在しない、大規模な大学病院などでの手術が必須となります。
他の都道府県での手術の必要性が認められれば、保険会社も保険金支払いを認めざるを得ないでしょう。
2-2. 既往症・合併症との関係で専門的な診察が必要な場合
すぐには手術が必要でなくても、交通事故によるケガに関連する既往症や合併症がある場合には、通常のケガよりも慎重な処置が要求されます。
特にこれらのケガや症状が、複数の医学的な専門分野にまたがって生じている場合には、一つの医療機関内で整合性の取れた診察・治療を施すため、大規模な総合病院の受診が不可欠です。
このような場合に、もし被害者が居住する都道府県に大規模な総合病院がない場合には、他の都道府県での治療が認められやすいでしょう。
3.他の都道府県での治療を保険会社に認めさせるためには?
これまで解説したように、保険会社が他の都道府県での治療について保険金を支払うかどうかのポイントは、「他の都道府県で治療する必要性があるか」の点にあります。
治療の必要性を保険会社に納得してもらうためには、たとえば以下の資料を示して保険会社を説得することが有効です。
・地元での診察、治療が困難であることについての医師の意見書
・ケガの重篤さや既往症、合併症の複雑さなどを医学的に示す診断書
また、保険会社に対して被害者の主張を効果的に伝えるためには、弁護士に相談することをお勧めいたします。
弁護士に他の都道府県の治療について相談すれば、交通事故と治療費の間の因果関係について、法的な整理を踏まえた適切な主張を組み立てることができます。
交通事故の治療を他の都道府県で行うことを検討している方は、一度弁護士までご相談ください。