2023.7.27 相続
遺言について
父が死亡しましたが,遺言を残しているかどうかが気になります。遺言書が残っていればその遺言に従って相続人が遺産分割すればよいのですが,スムー
ズに事が運ばないことがあるようです。
そのような方に,今回は遺言の様々な問題について書いてみました。
遺言書にもいくつか種類がありますので説明いたします。
①公正証書遺言書
公正証書は,公証人が作成します。公証人は裁判官や検察官などを務めた法
律の専門家ですので,信用性が高いものです。
②弁護士,司法書士に頼んで遺言案を作成して,遺言者が清書して書く自筆証
書遺言書
弁護士や司法書士の法律の専門家に頼んで遺言の内容を書いてもらうので,
不備・不適な遺言書にはなりません。
③自筆証書遺言書
遺言者が自分で遺言内容を考えて自筆で書く遺言書です。
自筆証書遺言書は遺言書としての不備・不適な箇所がある場合があります。
トラブルとなる遺言書は自筆証書遺言書の場合が多くあります。
遺言書を作成するに当たっては資料を準備する必要があります。
後日,遺言を執行する時に紛争とならないように,不動産の登記簿謄本,固定資産税評価証明書,住民票などの資料を取寄せて漏れのない正確な遺言書を作成する必要があります。
財産目録を作成しておく
遺言書作成上において,財産目録を作成しておくと,遺言書作成時に書き漏れを防ぐことができますし,遺留分侵害があるかどうかもをチエックできます。
遺言書案を作成する。
遺言書案を作成して遺言内容や書き間違い等をチエックして置き,誤りのない遺言書を作成するためには遺言書案を作ることは必要と判断されます。
遺言能力について説明します。
遺言者が認知症であったり,病気が重篤で意識が清明でない場合,高次脳機能障害がある場合など,遺言書を書いた時に遺言者に遺言能力があったかどうかで争われることがあります。
【遺言能力とは】
遺言をするには,遺言の内容を理解し,遺言の結果を弁識し得るに足る意思能力があればよいものです。
意思能力は,取引上の行為能力よりも低い程度の能力で足りるとされています。
(意思能力とは)
通常人としての正常な判断能力・理解力・表現力を備えていることです。
(意思能力の判定基準)
見当識,記憶力,認知能力,知能の4つの能力に基づいて判定します。
【遺言についての争い】
遺言がある場合に相続人の間で,「被相続人は認知症で遺言能力はなかった」として争われることがあります。
多数の裁判例において,遺言能力の欠如により遺言書が無効であると判断されています。信頼度が高い公正証書遺言においても遺言が無効とされた例が散見されます。
【遺言能力の判断基準】
(1)遺言の内容
遺言者が遺言の内容を理解・判断できたかどうかが重要な要素となり
ます。
例えば,「全財産を相続させる」のように遺言の内容が単純であれば病
状などで判断能力が低下していても遺言能力は肯定されやすく,複雑な
内容になれば遺言能力が必要とされるので,遺言能力は否定されやすく
なります。
(2)遺言者の年齢
高齢者の遺言をめぐって遺言の効力を争われる例が多いので,遺言者
の遺言作成時の年齢が遺言能力の判断要素となる場合が多くあります。
後期高齢者でも特に80代以上となると意思能力を慎重に調べる必要
があります。
(3)遺言者の病状
問題となる病名の多くは,脳梗塞,脳出血,重度の高次脳機能障害,認
知症,統合失調症など脳機能に関する傷病がほとんどです。
これらは判断能力が低下する病気であるため,どの程度症状が進んで
いたか,または改善されていたかが詳細に判断する必要があります。
(4)主治医の診断
主治医の診断や所見は重要視されます。
遺言者が遺言書作成時に判断能力を持っていたとの診断は有力な根拠
となります。
主治医が精神科,心療内科,脳神経内科,脳神経外科等の専門医であれ
ば有力な診断となります。
しかし,医師の診断や所見は絶対的なものではなく,他の状況も踏まえ
て総合的に判断する必要があります。
(5)遺言前後の日常の生活状況
遺言前後の遺言者の生活状況は,遺言者の遺言作成の判断能力を判定
するための重要な要素です。
遺言者の言動,食事を食べる時の状況,新聞などを読めるかなどを詳細
に確認して判断能力があるかどうかを調べる必要があります。
(6)遺言の作成動機
遺言の作成経緯は,遺言が遺言者の自発的意思に基づいて作成された
ものであるかどうかで遺言能力の判断基準の一つとなります。
遺言者の自発的意思によって作成されたものであれば肯定されやすく,
親族(遺言で利益を受ける相続人)等に誘導される,強制される,などし
て作成されたものであれば否定されやすいと判断されます。
(7)遺言書の形式
遺言書の遺言者の書いた文字の状態,文章による表現等,遺言書自体の
形式が整っていない場合は,遺言者の遺言能力が否定される要素となり
ます。
以上のような項目から総合的に判断して遺言能力があるかどうかを判定
します。
相続人間で合意ができない場合には,裁判で遺言者の遺言能力にについ
て判断を仰ぐことになります。
遺言能力で遺言書が後日問題とならないようにするためには,遺言書作
成時に,心療内科,精神科,脳神経内科,かかりつけ医等の医師に意思能力について問題がない旨の診断書を発行してもらっておくことが大切です。
遺言書のトラブルの例を紹介します。
①「遺産分割後に遺言書が見つかった」
遺言書が見つかったらその場で開封してはいけません。遺言書を家庭裁判
所に持って行って「検認」してもらい「開封」手続きを取る必要があります。
また,自筆証書遺言書の場合に,被相続人の自筆の遺言書であるかを確認す
る必要があります。
本人の自筆がどうか疑われる場合は筆跡鑑定を行うこともあります。
遺産分割後に遺言書が見つかった場合には,遺言の内容に従わなければな
りません。
つまり,遺言書に従って遺産分割をやり直す必要があります。
しかし,遺産分割後に遺言書が発見されても相続人全員が,遺言の内容を知
った上で,既に行われた遺産分割の内容を優先させると合意した場合は,遺産
分割をやり直す必要はありません。
②「遺言書を隠した相続人がいる」
亡父が生前遺言書を書いたと言っていたのに,亡くなった後遺言書がない
と言った場合に,遺言書を探す方法として,まず公正証書遺言書が残っている
か確認する必要があります。公正証書遺言は公証人役場に保管されています。
自筆遺言書の場合は,それを見つけるのは困難な場合が多くあります。
考えられる保管場所は,弁護士に遺言書作成を頼んでいたなら弁護士。
信託銀行は,遺言書の保管や遺言執行のサービスをしますので信託銀行。
被相続人が利用していた銀行の貸金庫。
その他,金庫,仏壇,被相続人と特に親しくしていた友人などです。
遺言書を隠していたことが発覚した場合。
遺言書を隠匿,偽造,変造,破棄した者は,相続人としての権利を失います
(相続欠格民法891条)。
現実には,ある相続人が遺言書を隠したことを証明するのは非常に困難で
す。
③「本人の自筆かどうかわからない」
遺言書の偽造,変造,隠匿,破棄などはほとんど自筆証書遺言書です。
遺言書の偽造が疑われる場合は,専門家に筆跡鑑定を依頼して明らかにし
ます。
しかし,筆跡鑑定の結果が100%正しいとは限りません。
筆跡鑑定で遺言書は偽造との結果が出たら,遺言書無効確認について裁判
所で調停をし,それで解決できなければ裁判となります。
裁判においては,裁判官は筆跡鑑定だけではなく,遺言書に押されている印
鑑,遺言書を預かった経緯・状況,遺言書を書く動機などを総合的に考えて,
被相続人本人が書いたものかどうかを判断します。
弁護士法人はるかは,これらの遺言書のトラブルがあるケースにおいても,解決までの近道を迅速に提示いたします。