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懲戒解雇や諭旨解雇されることも!会社の所有物を個人使用した場合の法的な責任を解説

ご相談内容

自分の働いている会社の車とETCカードを個人的な用途で使用した場合、何か問題が生じたり、処分を受けたりすることはありますか?

ご回答

上記相談のケースにおいて、個人的な用途で会社の所有物を使用した社員は、複数の法律上の罪に問われることもあります。そのような場合、会社側から懲戒解雇または諭旨解雇をされる可能性が高くなります。

そこで、会社の車とETCカードを個人的な用途で使用した社員は、法律上どのような罪に問われるのでしょうか。また、その際になぜ懲戒解雇や諭旨解雇をされてしまうのでしょうか。これらの点において、法的な観点から詳しく見ていくことにしましょう。


会社の車とETCカードの個人的な使用で刑事上と民事上の責任を問われる場合もある

刑法には、業務上横領罪という規定が設けられています。

刑法253条

(業務上横領)

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。

「横領」とは、他人から預かっていた物を自分の物として使用したり、処分したりする行為をいいます。横領の罪が成立するためには、「預かっていた他人の物を自分のものにしてやろう」という意思の存在が必要です。そして、業務上で預かっていた他人の物を自分の物として使用したり、処分したりした場合、業務上横領になります。ここでいう「業務」とは、他人から委託を受けて物を預かることを意味します。

冒頭の相談事例において、業務上で使用するために会社から車とETCカードを預かっていると考えられます。そのため、条文上の文言である「業務上自己の占有する他人の物」に当てはまるといえるでしょう。また、会社の車とETCカードを個人的な用途で使用しているため、横領行為の概念にも当てはまります。

冒頭の相談事例からは、社員が会社の車とETCカードの個人的な使用を会社側に報告した上で、返金しているか否かは確認できません。もし、無断で個人的な使用を続けて会社に損害を与えているような場合、業務上横領罪の責任を問われることになるでしょう。

また、業務上横領行為は、民法上の不法行為にもあたります。

民法709条

(不法行為による損害賠償)

故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

冒頭の相談事例において、会社の車とETCカードの個人的な使用により、その費用を会社側に負担させた場合、会社側は資産が侵害されて損害を被ったといえます。そのため、個人的に使用した金銭を会社側に返金していない限り、不法行為の責任が生じることになるでしょう。もし、会社側から不法行為の責任を追及された場合、会社の車とETCカードを個人的に使用した分の金銭相当額を損害賠償として支払う義務が生じます。


業務上横領罪は会社の懲戒処分の対象になる

大半の会社の就業規則には、社員の業務上横領行為は懲戒処分の対象となる旨が規定されています。懲戒処分とは、社員が社内秩序に反する行為をしたとき、会社側が制裁目的で下す処分をいいます。そのため、社員が会社で業務上横領罪に当たる行為をした場合、懲戒処分を受けるのが通常です。たとえ、社員の横領した金額が少額であっても、その結論は基本的に変わりません。数千円程度横領した社員を会社側が懲戒処分した事例において、その会社側の判断を有効と認めた裁判所の判例もあるくらいです。

会社側が社員に行なう懲戒処分の中でも最も重い処分が解雇です。懲戒処分による解雇の中には、懲戒解雇と諭旨解雇があります。懲戒解雇とは、対象社員との労働契約を会社側の判断だけで解消することをいいます。一方、諭旨解雇とは、会社側が対象社員と話し合った上で、自主的に退職してもらうことです。諭旨解雇も懲戒解雇の一種になりますが、解雇による処分が懲戒解雇よりも緩やかになる点に特徴があります。

業務上横領は、刑法上でも「懲役刑に処する」と規定されているほど重大な犯罪です。もし、会社側が業務上横領行為をした社員に対して懲戒処分をする場合、最も重い解雇を選択することになるでしょう。したがって、冒頭の相談事例においても、業務上横領罪の責任を問われることになった場合、懲戒解雇または諭旨解雇をされる可能性が高くなります。


業務上横領行為をしても懲戒処分による解雇をされないケースもある

冒頭の相談事例において、会社の車とETCカードの個人的な使用が、業務上横領罪に当たるとしましょう。しかし、会社側も業務上横領を行なった社員に対して無条件で懲戒処分による解雇ができるわけではありません。社員が業務上横領行為をしても懲戒処分による解雇をされないで済むケースもあります。なぜなら、懲戒や解雇は客観的に合理的な理由があって、社会通念上相当であると認められる場合でなければできないと法律上で定められているからです。

労働契約法15条

(懲戒)

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒にかかる労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法16条

(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

業務上横領を理由とする懲戒や解雇の有効性は、「平等の原則」、「適正手続きの原則」などに適合しているか否かで判断されます。

平等の原則とは、会社の秩序を乱した各社員の行為が同種類、同程度である場合、それに対する処分も同等でなければならないという原則です。たとえば、冒頭の相談事例と同じようなことをした社員が以前にもいたとしましょう。その社員は、厳重注意を受けたものの懲戒解雇は免れたとします。そのような事情の中、冒頭の相談事例の社員が懲戒解雇をされた場合、平等の原則に反するため、懲戒解雇が権利濫用により無効となる可能性もあります。

また、適性手続きの原則とは、会社側が社員を懲戒解雇する場合、適正な手続きを踏んで行なわなければならないという原則です。会社側が業務上横領を理由に社員を懲戒解雇する場合、その根拠を説明した上で行なわなければなりません。たとえば、冒頭の相談事例の場合、会社の車とETCカードの個人的な使用が業務上横領に当たることを法的に説明する必要があります。また、社員が業務上横領行為をした場合、就業規則の規定を示した上で、懲戒解雇されることになる根拠の内容も説明しなければなりません。これらの手続きを踏まずに会社側が業務上横領を理由に社員を懲戒解雇した場合、無効と判断される可能性もあります。


会社側に誠意を示して適切な対応を取ることが大切

会社の車やETCカードを個人的な用途で使用してしまうと、業務上横領罪など法的な責任を追及されて、会社側から懲戒解雇や諭旨解雇をされてしまう可能性があります。

ただ、上記の行為が業務上横領と判断された場合でも、平等の原則や適性手続きの原則に反している場合、懲戒処分による解雇の無効を主張できるケースもあります。また、業務上横領行為後、反省の姿勢を示して横領した分の金銭相当額を返還した場合、懲戒処分による解雇は違法性の観点から行き過ぎた処分と判断されることもあるでしょう。

したがって、冒頭の相談事例において、社員が業務上横領を理由とする懲戒処分による解雇を免れたいのであれば、会社側に誠意を示して適切な対応を取ることが大切です。