相談
【自転車で横断歩道を渡るときに車と衝突しました。頭部を打撲していたので救急車で病院に行きました。後で背広,メガネ,スマホ,時計の損傷に気づきました。加害者はそれらの損傷を見てないからと請求に応じません。どのように交渉すべきでしょうか。】
交通事故で被害者が負傷したり、運転している自動車や自転車が損傷したりするのはよくあることです。それに加えて冒頭の相談事例のように、交通事故で被害者の所持品が損傷してしまう場合も少なくありません。
冒頭の相談事例のケースでは、所持品の損傷に対する補償を請求できる可能性があります。
ただ、そのためには加害者側と適正な方法で交渉をしなければなりません。交渉をうまく行なうには、補償請求できる条件、補償の交渉をするときの重要事項、補償の限度額などを把握しておくことが大切です。また、相談者にとっては、交渉成立後の補償の受け方についても関心のあるところでしょう。
そこで、これらの点について具体的に解説していきます。
交通事故と所持品の損傷に因果関係があれば損害賠償の対象となる
冒頭の相談事例のケースで相談者は加害者に対して、頭部の打撲に関する損害の賠償請求をすることが可能です。また、加害者の自動車で衝突された際に乗っていた自転車が損傷したのであれば、それに関する損害の賠償請求もできます。これらを原因によって損害賠償請求が可能となる根拠は、民法の不法行為責任です。
民法709条
(不法行為による損害賠償)
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
交通事故で相談者の所持品が損傷した場合も、上記の条文を根拠に損害賠償請求をすることが可能です。なぜなら、交通事故と因果関係のある損害は、賠償請求の対象となるからです。
冒頭の相談事例で、背広、メガネ、スマホ、時計の損傷が交通事故に遭ったことによるものであれば、加害者に対して補償の請求ができます。
所持品の損傷に対する補償の交渉で重要なのは事前準備と請求する時期
所持品の損傷に対する補償を請求するには、交通事故との因果関係を証明しなければなりません。冒頭の相談事例において、加害者側は「背広、メガネ、スマホ、時計の損傷は見ていないから請求には応じない」と主張をしています。そのため、相談者は、加害者側との交渉の際、所持品の損傷と交通事故との因果関係を示しながら、補償請求をしていく必要があります。
所持品の損傷に対する補償の交渉では、事前準備と請求する時期が重要です。
交通事故で所持品が損傷したことを示す証拠をできるだけ用意する
所持品の損傷と交通事故との因果関係を証明するには、それを示す証拠をできるだけ用意することが大切です。
交通事故当時には、損傷した物の写真を必ず撮影しておくようにしましょう。写真は一枚だけ撮影するのではなく、いろいろな角度から複数枚撮影したほうが効果的です。そのほうが、物の損傷状況をより詳細に把握できるからです。
また、所持品の物自体も、損傷と交通事故の因果関係を証明する証拠となるので保管しておく必要があります。交渉の際、加害者側の保険会社が、状況確認のために損傷した物自体を見せてほしいと主張してくるケースもめずらしくありません。そのようなときに、損傷した所持品の物を保管しておけば、相談者側にとって有利に交渉を進めやすくなります。
補償の請求は事故後できるだけ早めに行なう
交通事故と所持品の損傷の因果関係を証明できる証拠の準備も大切ですが、補償を請求する時期も交渉するにおいて重要です。所持品の損傷に対する補償の請求は、交通事故後できるだけ早めに行ないましょう。交通事故が発生してから一定期間が経過した後に所持品の損傷に対する補償を請求しても、加害者側の保険会社から因果関係を否定される場合があるからです。
所持品の損傷の補償額は時価が限度
交渉の際には、所持品の損傷の補償額について話し合いをするのが通常です。そのため、交渉をうまく行なうには、補償の限度額についても把握しておかなければなりません。
所持品の損傷に対する補償額は、その物の「時価」を限度とするのが通常です。具体的には、交通事故当時の損傷した物の価値が補償の限度額になります。たとえば、交通事故で損傷した時計を10万円で購入していたとしましょう。しかし、交通事故当時の価格は2万円だったとします。このような場合、加害者側の保険会社から補償される金額の限度は2万円です。
通常、時の経過とともに物の価値は下がっていきます。損傷した所持品の購入時期から交通事故時までの期間が長ければ長いほど、その分補償額も低くなるのが原則です。
所持品の損傷に対する補償の受け方
加害者が任意保険に加入しているか否かで、所持品の損傷に対する補償の受け方が変わってきます。
加害者が任意保険に加入している場合、その保険会社から補償を受けることが可能です。補償額は、交渉の際に加害者側の保険会社と合意した金額になります。補償額の支払いは、交渉成立後になるのが通常です。
一方、加害者が任意保険に加入していない場合、加害者側の自動車保険から補償を受けることができません。自賠責保険で補償されるのは対人賠償のみで、交通事故の物損はその対象外です。そのため、自賠責保険からは所持品の損傷に対する補償を受けられないのです。加害者が任意保険に加入していない場合、原則、本人から直接補償金の支払いをしてもらわなければなりません
ただ、被害者が加入している自動車保険から補償を受けられるケースもあります。車両保険に加入した上で身の回り品補償特約を附帯しておけば、損傷物の内容によっては補償の対象となります。
衣類は、身の回り品補償特約の補償対象の中に含まれるのが通常です。冒頭の相談事例において、損傷した背広に対する補償を受けられる可能性は高いでしょう。一方、やスマホは、身の回り品補償特約の補償対象外であるケースが大半です。そのため、身の回り品補償特約によって、損傷したスマホの補償は受けられないと考えられます。
尚,メガネは人身事故の損害の補償対象となります。