車同士の事故が起きた時、早期の解決を図るために被害者と加害者の過失割合を決め、その割合をもとに損害額を算出します。過失割合は過去の裁判例をもとに類型化されているのに対し、歩行者同士の事故は件数が多くないため類型化されていないため、個別の事情によって過失割合が決められ、解決を図ります。
歩行者同士がぶつかった程度で重大な事故が起きるだろうかと思われるかもしれませんが、高齢者と接触し負傷したというケースは実際に起きています。もしも歩行者同士の事故で相手を負傷させてしまった場合、どのように示談交渉を進めればいいでしょうか?
高齢者が歩行時の事故で負傷しやすい理由
歩行者同士の接触で重大なトラブルに発展することは極めて稀です。たいていの人は肩に軽くぶつかったり転倒してもすぐに起き上がったりしてその場で解決するものです。しかし、高齢者との接触で転倒の際に重傷を負うケースが見られます。
これは加齢とともに身体的能力が衰え、転倒によりバランスを崩して重大な事故につながる恐れがあるためです。それだけでなく、視力や張力の衰えによって相手が近くにいることに気づきにくくなり、接触するリスクも出てきます。
歩行者同士の接触事故は解決が難しい
車が関係する交通事故では保険会社が加害者に代わって示談交渉を進めることがほとんどです。被害者・加害者ともに交通事故の示談に慣れていないので、加入している任意保険会社が本人に代わって示談交渉を進め、事故の解決を図ります。
では、歩行者同士の事故の場合、個人賠償責任保険に加入していなければ示談は加害者本人が被害者と直接示談をすることになるのでしょうか。もしも被害者の怪我の状況が深刻であれば、納得のいく損害賠償額を請求しようと被害者が感情的になり話し合いにならないかもしれませんし、相手が弁護士を雇ってより有利に交渉を進めようとする可能性もあります。そのため、歩行者同士の接触事故でも場合によっては弁護士に依頼して解決を図った方が賢明と言えます。
加害者の過失が認められなかった事例
歩行者同士の接触事故の加害者が気になるのは、本当に責任を取らなければならないのかということかもしれません。実はこれまでの判例で高齢歩行者と接触し、怪我を負わせても賠償責任を否定したケースがあります。
具体的には、人通りの多い交差点で25歳の女性(Y)が友人とともに人の流れに従ってゆっくり歩行し、目指す店舗を探そうと首を左後方に向け歩みを止めかかった瞬間に91歳の女性(X)と接触。Xが転倒し、右大腿骨頸部骨折の傷害を負った事案です。
この控訴審で「自己の身体的能力に応じて、他の歩行者の動静を確認した上で、歩行の進路を選択し、速度を調整するなどして他の歩行者との接触、衝突を回避する」ことが歩行中に求められる注意義務とされ、Yに注意義務違反があったかどうかが争われました。
控訴審では、Yの右肩から背中、腰にかけてXが接触した等の事実認定をもとに、Yの有責性を乱すことは困難であり、YがXを発見し、Xとの接触を回避することは可能だったという事実は認められず、Yに注意義務はないとしました。
状況に応じて判決が別れることも
この裁判では、人通りが多く尚且つゆっくりと歩行していたために歩行者同士が衝突する予見可能性はなく、Yに過失はないとされました。なお、Xは裁判で「Yは小走りしていた」と主張していたようですが、第一審、控訴審共にこの主張は認められていません。人通りが多い歩行者天国の交差点で、小走りしながら目指す店を探すのは現実的ではなく、歩みを止めようとしていたというYの主張が通ったと言えます。
ただ、Yが本当に小走りしていたなら過失があったとみなされ、判決も変わっていたかもしれません。人通りが多いところを小走りするのは他の通行人に接触するリスクが高まり、極めて危険だからです。
また、昨今問題になっている「歩きスマホ」をしていた場合の接触事故でも、加害者の過失が認められていた可能性があります。スマホの画面に集中するあまり、周囲にまで注意が行き届かない状況は過失があったとみなされるでしょう。
とはいえ、上記の裁判例のように状況次第では加害者の過失が否定されています。高齢歩行者との接触事故で相手を負傷させてしまい、損害賠償を請求されたとしても、請求された金額を支払う前に弁護士に相談してみましょう。
弁護士に相談の上、示談交渉を進めるのがベスト
歩行者同士の事故は被害者の年齢、事故現場、事故当時の状況などによって過失の有無が変わってきます。自力での解決は極めて困難になることが予想されるため、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故の示談を数多く経験している弁護士なら、歩行者同士の事故の示談にも対応できます。
特に高齢者の場合、将来に渡る介護費用が含まれた金額を損害賠償請求することが多く、その分損害賠償額が高額になる傾向があります。請求された金額が本当に正しい金額なのかどうか知りたい方は弁護士にご相談しましょう。