著作権法は、創作性のある表現を保護するための法律です。典型的には、小説や絵画などといった文化的・芸術的要素のある創作的表現が著作権法の保護の対象となる「著作物」となります。
コンピュータープログラムについては「プログラムの著作物」(著作権法10条1項9号)として昭和60年の著作権法改正によって著作権法の保護の対象となることが定められました。とはいえ、コンピュータープログラムは小説や絵画など伝統的な著作物とは異質のものです。そこで、コンピュータープログラムが「プログラムの著作権」として著作権の対象となるのがどのような場合かを解説します。
1.コンピュータープログラムに関する規定
(1) 「プログラムの著作物」とは
コンピュータープログラムが著作権の保護の対象となるためには、「プログラムの著作物」といえる必要があります。ここでいう「プログラム」とは、著作権法上、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう」(法2条1項10号の2)と定義されています。
要するに、「プログラムの著作物」として保護されるプログラムは、コンピューターを作動させて一つの結果が生じればよく、例えばルーチンやサブルーチンでもよいとされています。このほか、ソース・プログラムなども「プログラムの著作物」として著作権の対象となることがあります。
(2)著作権法が適用されないもの
著作権法10条3項は、「プログラムの著作物」に対する著作権法上の保護は、プログラムを作成するために用いるプログラム言語、規約、解法には及ばないとしています。
プログラム言語とは、プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいいます(著作権法10条3項1号)。具体的には、ベーシックなどがプログラム言語にあたります。
規約とは、特定のプログラムにおけるプログラム言語の用法についての特別の約束をいいます(法10条3項2号)。具体的には、インターフェース、プロトコルが想定されています。
解法とは、プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいいます(法10条3項3号)。具体的には、アルゴリズムがこれにあたるといわれています。
2.著作権法上の「著作物」-創作性
(1)コンピュータープログラムにも創作性が必要
コンピュータープログラムに限らず、著作権法上の「著作物」として保護の対象となるためには、思想が創作的に表現されていることが必要です。これは、著作権法が文化の保護を主眼とした法律であることの当然の帰結といえます。
コンピュータープログラムは、一見すると文化的な要素よりも技術的な側面が強いため、創作性という要件がなじまないようにも思えます。しかし、コンピュータープログラムもまた著作権の対象となるためには、伝統的な著作物と同様に、創作的な表現であることが必要とされています。
ただし、「プログラムの著作物」に必要となる創作性としては、芸術的・文化的なものであることは当然求められておらず、作成者の個性が表現されていれば足ります。実際に、「プログラムの著作物」に該当するかが争われた事案で、裁判所は、作成者の個性が表れたプログラムのみが著作権の保護の対象となるとの立場に立っています。
(2)コンピュータープログラムの創作性に関する裁判例
「プログラムの著作物」の創作性に関して争われたシステムサイエンス事件(東京高決平成元年6月20日判時1322号138頁)は、次のように一般論を示しました
「あるプログラムがプログラム著作物の著作権を侵害するものと判断し得るためには、プログラム著作物の指令の組み合わせに創作性を認め得る部分があり、かつ、後に作成されたプログラムの指令の組み合わせがプログラム著作物の創作性を認め得る部分に類似している事が必要である」
その上で、同決定は、以下の2点を理由として、指令の組み合わせに創作性が認められないと判断しました。
- ・「本体側よりデータ入力後の処理ルーチーン」という指令の組み合わせは、ハードウェアに規制されるので本来的に同様の組み合わせにならざるを得ない
・「プリンター制御不能時の処理ルーチーン」は共に極めて一般的な指令の組み合わせを採用している
1点目については、ハードウェアによる制御の結果、アイディアと表現が不可避的に一致してしまう場合には創作性が認められないことを意味します。また、2点目は、表現が凡庸なものである場合にも創作性が認められないことが示されたものです。
プログラムについて著作権法上の保護が認められた場合、第三者が自由にそのプログラムを利用することができないという法的な効果をもたらします。したがって、「プログラムの著作物」の範囲が拡大しすぎるとかえって技術的な発展が阻害されることを理解しておく必要があります。
本決定についてみると、ハードウェアにより一義的に規制されるプログラムを著作権の保護の対象とすると、本来は工業所有権制度において保護の対象とするか判断されるべきものが著作権法によって独占的権利を認める結果となってしまう不都合があります。
また、誰でも思いつくような凡庸なプログラムは第三者も汎用的に使用する可能性があるものです。したがって、凡庸なプログラムにまで著作権の保護を与えることになれば、第三者のシステム開発の弊害となり不利益が大きいといえます。
ただし、共同開発のようなケースでプログラミングをする際、相互にプログラムの動作が明確となるようにあえて汎用性の高い単純化されたモジュール等のプログラムを作成することがあります。このように意図的に汎用性を持たせたプログラムも、裁判例の解釈に従えば著作権法により保護されないこととなる可能性がある点には注意が必要です。
3.まとめ
プログラムが著作権の保護の対象となるかについては、プログラムに創作性が認められるかが大きなポイントとなっています。「プログラムの著作物」は、伝統的に著作物として認められてきたものとはまったく異なる性質を持つことから、創作性の判断は容易ではありません。適切な判断をするためには、当該プログラムの動作や仕組みを具体的に分析することが必要となります。