2020.11.16 その他
テナントがコロナの影響で経営不振で賃料滞納している場合でも家主は明け渡しを請求できますか?
テナント用不動産を用いた賃貸経営をしている家主さんにとって、安定したインカムゲインを確保することはとても重要な課題です。
収入源となる賃料を払ってくれるのは個別のビジネスを行う賃借人ですが、コロナの影響で経営不振となる事業者が後を絶ちません。
この章では、コロナで収入がなくなり賃料を滞納している賃借人に対して、家主が物件の明け渡しを請求できるかどうか考えてみましょう。
裁判外の請求は契約に従い可能
通常、テナント用不動産の賃貸借契約では、賃借人が賃料を滞納した場合の契約解除について規定を設けているはずです。
公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会が作成した店舗用不動産の賃貸借契約書ひな形「事業用賃貸借契約書(店舗)」を参考に見てみると、賃借人が賃料や共益費を2か月以上滞納した場合、賃貸人が相当の期間を定めて催告を行ったうえで、それでも滞納が続く場合は契約を解除することができると定めています。
上記は任意のひな型ですので、個別の事案では契約当事者によって解除既定の内容は違いが出ますが、いずれにしても賃料の滞納は賃借人側の契約違反ですから、債務の不履行として契約解除の対象となり、これにより明け渡し請求が可能になります。
裁判外では当事者を拘束するのは契約ですから、契約書に定めがある以上、これに従って物件の明け渡しを請求するのは家主の自由ということになります。
問題は、賃借人側がその要求に応じない場合です。
コロナの影響で収入が減ったという特別な事情があることを盾に、立ち退きに応じない場合は最終的に裁判に訴えるしかありません。
その場合、契約書の規定だけでなく裁判特有の考え方を用いて事案の解釈が行われます。
本件のようなケースで問題となるのが「信頼関係破壊の法理」というものです。
これを次の項で見ていきます。
「信頼関係破壊の法理」とは?
信頼関係破壊の法理とは、一般的な賃貸借契約において、賃借人側に賃料滞納の責任があったとしても、それが賃貸人の信頼を破壊すると認められる特段の事情が無い場合は、裁判所として契約解除を認めない、という原則的な法理論のことをいいます。
契約違反をしたのは賃借人側でも、それが軽微であれば契約解除を認めないということで、基本的に賃借人側に有利な考え方です。
そして、賃料の滞納については概ね2か月程度の滞納までは許される(契約解除を認めない)というのが基本的な裁判所のスタンスです。
上記の考え方は、コロナの影響がない場合にも適用のあるものですから、コロナの影響で全国的に事業運営が停滞している状況下では、さらに賃借人側に温情的なスタンスを裁判所がとる可能性はあるでしょう。
例えば安倍政権下で発出された緊急事態宣言下では、収入が0となった事業者も多くいました。
あのような急激な事情変化の元では、賃借人側の事情を汲んで契約解除を認めない期間が長引くことも考えられます。
今現在は緊急事態宣言は解除され、様々な景気刺激策も打ち出されていますので状況は変わっています。
実際に裁判となった時に、賃借人側がどれだけビジネスがしにくい状況なのかを考慮して、どれだけの賃料滞納期間があれば契約解除を認めるか、裁判所が判断することになります。
現状、家主さんとしては少なくとも3ヶ月以上の滞納がないと裁判上では契約解除=明け渡しを認めてもらえない可能性が高いと認識しておきましょう。
賃料減免や支払い猶予によって契約を続行するのも一考
裁判外でも、2か月程度の滞納があったからといってすぐに強硬に明け渡しを求めることは家主さんにとっても不利益が生じる可能性があります。
例えば賃借人が夜逃げしてしまい原状回復がなされない、新たな賃借人が入らずインカムゲインが得られなくなるなどです。
そこで、賃料の減額や支払い猶予を検討し、現在の賃借人の経営体力の回復を促すことで双方の生き残りを考えることも一つの道です。
政府の景気刺激策で盛り返すことも十分考えられますから、そうすれば以前のように安定した収入を確保することができます。
政府もテナント料の減免に協力してくれるように要請していますが、法的に拘束力はないので義務ではありません。
逆に、テナント料の減免等に応じることで家主さんが一定のメリットを得られるような施策を検討しているので、こうした優遇策を利用するのも良いでしょう。
優遇施策のうち一部は関係法令の成立が前提となりますが、一部はすでに実施されているものもあります。
例えばテナント料を減免した場合、一定の条件を満たせば減免した賃料分を損金として算入することができ、これについてはすでに実施されています。
その他の優遇施策については、大きく賃料の支払いを猶予した場合と、賃料を減免した場合に分けています。
賃料の支払いを猶予した場合は(1)税・社会保険料の納付猶予、(2)固定資産税・都市計画税の減免を受けることができます。
賃料を減免した場合は同じく(1)税・社会保険料の納付猶予、(2)固定資産税・都市計画税の減免に加えて、先ほど出てきた(3)免除による損害の額の損金算入が加わります。
関係法令の成立が前提となる施策が含まれることもあり、現時点で詳細が未定の部分も多いですが、今後の政府アナウンスに注視していきましょう。
現状で政府が発表している優遇施策はこちらで確認することができます。
https://www.mlit.go.jp/common/001342197.pdf
まとめ
本章ではコロナの影響で収入が減ったことを理由に従業員を解雇できるか、休業する場合の給料はどうなる
本章ではコロナの影響で収入が減りテナント賃料の滞納が起きた場合、家主が物件の明け渡しを請求することができるかどうかについて見てきました。
裁判外の請求は契約に従い可能ですから、夜逃げの心配がなく次の借り手もすぐ見つかるなど、不利益が生じなさそうであれば、明け渡しの請求を行うことも選択肢になるでしょう。
しかしもし裁判となった場合は、裁判所は信頼関係破壊の法理という独特の理論で事案を審理することになるので、この点は覚えておくようにしましょう。
実際に明け渡し請求を実行する前には、裁判に発展する可能性や、その場合の勝算を見越しておく必要があります。
トラブルを防ぐためにも、弁護士に相談の上で進めるのが安全です。