弁護士法人はるか|栃木宇都宮法律事務所

「脊髄損傷と後遺障害」及び 腰椎ヘルニア

 「脊髄損傷の解説と後遺障害」についての説明

 交通事故などで,脊柱に強い外力が加わって脊椎が脱臼・骨折し,脊髄まで外力が加わると,脊髄に浮腫・出血・圧迫さらには挫傷,時に断裂が生じ,脊髄の伝道機能に障害が生じて,からだの部位に麻痺(運動,感覚機能の障害)が生じます。これが脊髄損傷で,脊髄が断裂・挫滅されてしまうとその部分は回復せず,永久的な麻痺が残ります。

 脊髄損傷により発現する麻痺の範囲は,脊髄の損傷部位(高位といいます)によって定まります。

 好発高位は,脊椎損傷が多発するのは中・下位頸椎と胸腰椎移行部です。割合は3:1

 頚髄が損傷を受けると,四肢に感覚・運動障害が生じ(四肢麻痺),胸髄や腰髄の損傷の場合には,両下肢に機能障害が生じます(対麻痺)。また,その他に自律神経障害も加わって,循環器障害,消化器障害,呼吸障害,排尿障害が生じることもあります。

 麻痺の程度についても,感覚・機能障害が完全かつ持続的に消失する完全麻痺と,部分的な機能が残っている不完全麻痺とがあります。

1.脊髄損傷高位別の特徴

①上位頸椎部(第1頸椎~第3頸椎)の脊髄が損傷されると,完全麻痺は横隔膜の麻痺を伴うため致命的です。生存例は不完全麻痺の場合です。救命措置を最優先させます。

全身症状は,呼吸障害(人口呼吸器の装着必要),失神感やめまい,循環障害(血圧低下,徐脈,循環血流量の減少,静脈環流障害,全身浮腫,肺水腫),四肢麻痺(四肢の運動機能障害または消失をきたす)などです。

②中・下位頸椎部(第4腰椎~第1胸椎)の脊髄が損傷されると,不全麻痺が多く,呼吸障害,四肢麻痺,胸郭運動障害などです。

③上・中位胸椎部(第1胸椎~第10胸椎)の脊髄が損傷されると,感覚,運動機能の完全麻痺などです。

④胸腰椎移行部(第11胸椎~第2腰椎)の脊髄(馬尾神経)が損傷されると,両下肢の完全麻痺(完全麻痺の発生頻度が70~80%と高い),膀胱直腸障害などです。

 胸腰椎移行部は脊髄損傷の好発部位です。

⑤腰椎部(第2腰椎~仙椎)の脊髄(馬尾神経)が損傷されると,多くは不全麻痺であり,両下肢の運動障害などです。

 

2.脊髄損傷の診断

  脊髄損傷の診断は,単純Ⅹ線,CT,MRIによる画像診断,神経学的診断(腱反射テスト,徒手筋力テスト,筋委縮検査,知覚検査,手指巧緻運動検査など),電気生理学的検査(脊髄誘発電位,体性感覚誘発電位)

 

3.脊髄の障害の後遺障害等級

  後遺障害の等級は,身体的所見およびMRI,CT等によって裏づけられることのできる麻痺の範囲(四肢麻痺,対麻痺,単麻痺)とその程度(高度,中等度,軽度,軽微)により第1級~第12級まで7段階に区分して等級を決定します。       

 

「頸椎・腰椎椎間板ヘルニアと事例紹介」

ヘルニアは頸椎椎間板ヘルニアと腰椎椎間板ヘルニアがポピュラ―ですので,先ず,頸椎椎間板ヘルニアについて説明します。

1.頸椎椎間板ヘルニア

  頸椎は7個の椎体が上・下に積み重なって頭と胴をつなぐ首の骨をつくつています。

  各々の頸椎が前後・左右に動き,しかも上下にずれないように連結するのが椎間板であり,上下の骨の椎体間に介在しています。

椎間板は椎体と椎体との間にあってクッションの役目を果たしています。

椎間板の形は菓子のバームク―ヘンのような構造をしており,辺縁部は線維性の組織でできた線維輪が年輪の様になっています。一方,中心部にはゼラチン状の組織の髄核があります。

 一般的には,椎間板の退行変性(加齢変化)により,線維輪が断裂しその部分から髄核や線維輪が脊柱管内に脱出した状態です。年齢的には比較的若い30~50歳代に多く見られます。レスリング,相撲,柔道,ラグビーなど頭部・頸部に衝撃を受けるスポーツをしている人は20歳代で発生することがあります。

 髄核が後方正中に脱出すると脊髄圧迫症状を呈し,手指の巧緻運動障害,歩行障害,四肢の知覚障害などが発症します。

 髄核が外側に脱出しますと,脱出した側の神経根を圧迫して神経根症状を呈し,障害神経根側の上肢への放散痛,障害神経根レベルの知覚障害,筋力低下,筋委縮などが発症します。

 交通事故が原因でヘルニアが発生する場合は,追突の場合では,追突され車の後部が押し潰され骨格部位が圧潰する程強い衝撃により,車に搭乗している運転手がルームミラーやフロントウインドガラスで頭を打つような強力な衝撃を頚椎に受けた場合にヘルニアが発症すると考えられます。

 例えば,国産の小型乗用車で修理費が150万円以上かかるような事故の時に発生する可能性があります。

 一般的に,追突事故でも車の修理費が50~60万円程度の事故では発生しません。

 また,MRIなどの画像上椎間板ヘルニアがあってもなんら症状のない人もまれではありません。

 

2.腰椎椎間板ヘルニア

  腰椎椎間板ヘルニアの発生は頸椎椎間板ヘルニアと同じで,椎間板の退行変性により脱出した椎間板組織が神経根や馬尾神経を圧迫して,腰痛,下肢痛を引き起こす病態です。進行すると両下肢の高度な感覚・運動障害,排尿障害,疼痛性跛行などが生じます。

  交通事故で腰椎椎間板ヘルニアが発生する場合は,頸椎椎間板ヘルニアの場合と同じで,非常に大きな衝撃が腰椎を襲った時に発生します。

                                 

          「ヘルニアの事例紹介」

 

①傷病名・受傷部位:外傷性頚椎椎間板ヘルニア

   ②解決方法(示談・訴訟):   

    ・示談

   ③等級,後遺障害内容

    ・11級7号「脊柱に変形を残すもの」

    ・外傷性頚椎椎間板ヘルニアに対して第3頸椎から第7頸椎に亘って椎弓形成術の手術をしたことにより,脊柱に変形を残すものとして11級7号が認定された。

   ④増額額:提示額425万円,示談額1410万円(3.3倍),増額額 985万円

   ⑤事故状況

    ・信号のある交差点で被害者は軽四に乗り赤信号で停止中,右道路より左折してきたトラックがハンドル操作を誤り被害車両に衝突し,被害車両は大破し全損となった。

   ⑥相談に来た背景・状況

    ・被害者の男性会社員はるかのホームページを見て,保険会社の提示額が少なく不満があるとして相談に来所し受任したもの。

   ⑦後遺障害と解決の道のり

    ・保険会社は後遺障害の算定を自賠責額と同額の331万円の認定であった。

    ・主たる争点は,後遺障害の遺失利益で被害者は59歳の会社員で60歳以後の収入の立証と,労働能力喪失期間であった。

後遺障害の状態から労働能力喪失期間は就労可能年数全期間を認めさすことが出来た。定年については就業規則,労働契約等定年を立証する明確な資料がなく,59歳から60歳まで2年間は現実収入で,61歳から65歳までの5年間は賃金センサス学歴計年齢別年収,66歳から70歳までの5年間も学歴計年齢別年収で計算し,遺失利益837万円を認めさせて示談となった。

   ⑧はるかに委任してどうなったか

    ・被害者は保険会社の後遺障害の額が自賠責額331万円であったのが,就労可能年数全期間での遺失利益の算定で837万円と大幅に増額出来たこと,その他慰謝料,後遺障害慰謝料も増額著しく被害者はとても満足されていました。

   ⑨解決のポイント

    ・保険会社に労働能力喪失期間と遺失利益の基礎収入について当方の主張をほぼ認めさせることが出来たことです。

   ⑩まとめ:遺失利益,後遺障害慰謝料,傷害慰謝料を当方の想定範囲内で示談することができた。                                                  

                                            以上