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コラム

破産

会社が破産すると役員個人(理事・取締役など)はどんな責任を負うのか

会社が破産しても、役員が個人的に責任を負うことは原則ありません。ただし、経営者保証がある場合や、会社が破産に至る原因を作ってしまった場合には、債権者などの各方面に対して引責する必要が生じる可能性はあります。

本コラムでは、役員名義の資産が破産処理の対象になるか否かを含め、会社関係者に対して発生し得る個人的責任について解説します。


会社が破産すると役員個人の資産はどうなるのか

破産した会社の資産は換価処分されますが、役員個人の資産まで処分の対象になることはありません。また、債務者に対する個人的な支払義務もなく、個人資産が差押えの対象になることも普通は考えられません。法人と個人はそれぞれ独立した人格であり、財産に関する権利義務も分離されているからです。

ただし、役員個人と会社の債務との関係しだいでは、下記のように個人資産まで処分される結果になることがあります。


役員も破産しなければならないケース

実のところ、会社と同時に役員個人も破産申立をしなければならないケースが少なからずあります。左記の場合、個人資産も換価処分の対象になることは当然避けられません。

連座して役員個人も破産せざるを得なくなる具体例として、典型的なものが3つ挙げられます。

  • パターン1:個人保証を行っているケース

    事業融資を得る際に個人保証をつけている場合、主債務者である会社の破産に伴って保証人への一括請求が始まります。この請求に応じられず、分割返済を交渉する余地もない場合、個人として破産手続を開始しなければなりません。

    パターン2:役員貸付金があるケース

    会社から役員個人に対する貸付金(=役員貸付金)がある場合、会社の処理を行う破産管財人から返済するよう要求されます。役員貸付金が多額に及ぶ場合も、やはり個人として破産手続を開始せざるを得ません。

    パターン3:破産管財人による否認

    破産管財人には、破産手続開始前に行われた第三者の行為を無効にする「否認権」があります。

    破産法第160条から第176条までで規定されるように、破産を察知してむやみに役員報酬を受け取ったり、会社の資産を役員個人やその親族の名義に変更したりすると、否認権を行使されて会社に財産を返還しなければなりません。その間接的な結果として、役員個人も破産せざるを得なくなる可能性があります。

 

上記パターン1の個人保証があるケースでは、事業主を再起不能に陥らせるような弊害を除くため「経営者保証ガイドライン」が制定されています。

一定の要件を満たせば、ガイドラインに沿って保証債務の私的整理(法的手続きに依らない話し合いによる整理)が実施でき、経営者個人の信用情報(金融事故の情報などが掲載される記録)を傷つけずに無理のない返済計画に応じてもらえます。


役員個人の損害賠償責任・刑事責任はどうなるのか

役員個人の資産が換価処分の対象にならないのと同じ理由で、関係者に対して損害賠償責任を負うことも普通はありません。ただし、会社法で定められる責任を果たさなかったことが破産の原因になった場合や、破産手続中に禁じられる行為をしてしまった場合は、民事あるいは刑事責任を負うことになります。


会社に対する損害賠償責任

破産法では、裁判所の職権か破産管財人の申立てにより、会社の役員の責任を裁判で迅速に判断する「役員責任査定」が制度化されています(第178条)。本制度がある以上、会社に対する役員個人の損害賠償責任が発生する可能性は否めません。

そもそも、会社と役員(理事や取締役)は「委任契約」を結んでいると法的に解釈されています()。また、委任された側、つまり理事や取締役は「その地位にあるものに通常期待される程度の注意義務」(善管注意義務)と「法律や会社の取り決めを遵守する義務」(忠実義務)を負っています。

「以上の2つの義務を果たさずに会社に損害を与えてしまった」と役員責任査定で判断されてしまった場合は、任務懈怠により損害賠償義務を果たさなければなりません(会社法第423条)。


債権者に対する損害賠償責任

債権者に対する役員個人の支払義務がないことは既に述べた通りですが、同じく「会社が債権者に与えた損害」と言う意味でも責任を負うことはありません。

ただし、会社に対する責任で述べた「任務懈怠」が発生しており、それが単なる過失でなければ、損害賠償に応じる義務が生じます(会社法第429条)。

破産に対して刑事責任を負う場合もある

最後に、会社の破産に対して不誠実な行為を取ってしまうと「詐欺破産罪」(破産法第265条)や「特定の債権者に対する担保の供与等の罪」(破産法第266条)に問われる恐れがあります。

 

【詐欺破産罪にあたる行為】

 

【特定の債権者に対する担保の供与等の罪にあたる行為】

債務者に破産手続開始決定(あるいは保全管理命令)が下りたことを知りながら、債権者を害する目的かつ正当な理由なく債務者の財産を取得する(または第三者に取得させる)行為

 

上記のような行為は、破産手続に対する理解度が原因で悪意なく行ってしまうこともあります。会社の破産には役員個人でも複雑な対応が必要になるため、必ず弁護士に相談しましょう。


まとめ

法人と個人が分離されている以上、役員が会社や債権者に対して何らかの責任(支払義務や損害賠償義務)を負うことは基本的にありません。

ただし、個人保証・役員貸付金の存在・破産管財人による否認権行使などが原因で、結果として役員個人の資産に換価処分が及んでしまう可能性があります。また、任務懈怠があったと認められた場合は、相応の損害賠償に応じなければなりません。

個別の破産ケースでの役員個人への影響は、知見のある人物が客観的・総合的に判断する必要があります。破産手続の必要性が出た時は、速やかに弁護士に相談するよう心がけましょう。

 

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